現役美大生の日記

地方美大に通ってます

奨学金を借りてでも、地方美大に進学した理由

 

18歳の時、私は大学進学を機に実家を離れた。

 

実家から1時間とかからない所にも美大はあった。それでも、わざわざ実家から離れた地方美大を選んだのは、偏に実家に自由がなかったからだ。実家には一人部屋と呼べるものはなかった。母親が私の部屋に布団を敷いたからだ。高校が遠かったので、家を出るのは一番早かった。帰りは母親と一緒に。それが我が家の当たり前だった。学校から帰ってから、朝家を出るまで。一人になれる時はなかった。プライベートはなかった。そんな家だった。

 

母親の口癖は「さみしいだった。どこかに行きたい時も、一人はさみしいからと言って連れて行かれた。私が家で携帯をいじっている時も、漫画を読んでいる時も、さみしいからとくっつく。母親がTVを見ているときは、面白いからと言って一緒に見ることを強要してくる。嫌だと拒否すると機嫌を損ねる。そんな母親だった。

 

とにかく家にいても気が疲れた。このままじゃいけない、そう思った。大学進学の機を逃したら、いつ家を出られるかも分からなかった。とにかく一人になりたかった。物理的にも、精神的にも。大学選びの一番の条件は実家を出られること。誰にも言わなかった。この大学だとこんなことができる、そうやって母親には言った。もちろん学びたい分野があったのは事実だが、本心はとにかく家を出たいだった。美大は授業料以外にも、消耗品の画材代がかかる。地方での一人暮らしだとさらにお金が掛かる。そうだとしても、奨学金で苦しむ未来があったとしても、とにかく今、家を出たかった。

 

そうやって18歳の春、飛行機に乗り、一人暮らしを始めた。

母親と離れて初めての夜。少しはさみしさを感じるかと思ったが、全くだった。電気を消した真っ暗な部屋に、一人分の呼吸しか聞こえない。それだけなのに、心が安らいだ。家を出て良かったと感じられた瞬間だった。一人暮らしをして、確かに生活水準は下がった。だが、気持ち的には明らかに以前よりも良くなった。実家を出て、物理的な距離ができたことで、以前まで母親に感じていた嫌悪感も少し薄らいだ。

 

もし同じように、家にいても気が休まらないと思っているなら、そこを出たほうがいい。大学進学は私にとって、その機会だった。家を出ることに不安を抱えているなら、意外となんとかなるとアドバイスをしたい。大学生はバイトもしやすいし、思っている以上に優しい人はいる。絶対、なんて言葉は使えないが、少なくとも私は、実家を出たことを後悔していない。もし受験期に戻れたとしても、同じように地方美大を選んでいただろう。